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世界的な自動車メーカー「フェラーリ」の創始者、エンツォ・フェラーリ(1898-1988)。1957年の夏、破綻しかけている会社の起死回生をかけて挑んだロードレース「ミッレミリア」までの経緯を、複雑な私生活を絡めて描いています。
レースシーン満載のガソリン臭い作品かと思いきや、エンツォと妻ラウラ、愛人リナのキャラクターと関係性が鮮明で、車に興味のない人でも見どころがいっぱい。
息子ディーノを難病で喪い、冷え切ってしまった夫婦仲は修復しようもなく、今ではお互い憎み合っているエンツォとラウラ。エンツォに長年の愛人がいて子どもまでいることを周囲はみんな知っているのに、ラウラだけがかやの外。かたや愛人のリナは、いつまでたってもエンツォに子どもを認知してもらえない――酷いんじゃないの?とエンツォにちょっとムカッときました(笑)。
エンツォ役のアダム・ドライバーは、妻や愛人にすら心を開かず、レースでの勝利をすさまじい情熱で追い求める狂気の人物をこん身の演技で表現しています。妻ラウラを演じたペネロペ・クルスは、何もかもに絶望し、疲れ切った表情で全身から怒りを放出させる様子が見事。愛人宅から帰宅したエンツォを銃で撃つシーンはまるで『極道の妻たち』シリーズの姐さんそのもので超クール。「おーそのくらいやってやれ!」とつい応援しました。
マイケル・マン監督が構想30年をかけた作品だけに、カーレースと会社経営にまつわる駆け引きと、エンツォを取り巻く人々の悲喜こもごもがバランスよく配され、緩急のある展開で最後まで飽きさせません。クライマックスのイタリア全土1000マイルを走るレースの迫力は驚異的。イタリアの雄大な景色も楽しめます。
いろんな意味で「濃い」作品。壮大なスケールのドラマです。ぜひ大きなスクリーンで堪能してください。
●『フェラーリ』
https://www.ferrari-movie.jp/
執筆者:本間千英子
新潟市出身。大学で映画脚本を学び、卒業後は東京でほんの少し邦画制作と宣伝に携わりました。幼少時から映画、ドラマ、演劇、本などを支えに生きる還暦フリーライターです。ここではエンタメ全般のオススメ作品と旬の話題もご紹介します!
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