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監督/脚本:セリーヌ・ソン 出演:グレタ・リー、ユ・テオ、ジョン・マガロ 2023年/アメリカ・韓国 原題:Past Lives/106分/G 配給:ハピネットファントム・スタジオ
●2024年4月5日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開。新潟ではユナイテッド・シネマ新潟、T・ジョイ長岡で上映予定
韓国・ソウルに住む12歳の少女ノラと少年へソンは幼なじみ。お互いに恋をしていましたが、ノラの一家がカナダに移住したことで離ればなれになってしまいます。その後の二人の24年間と、36歳になり、ノラが夫アーサーと暮らすニューヨークで再会する7日間が描かれています。
まず驚くのは、メインキャラクター3人の関係が非常にリアルであること。会話それぞれはけっこうスリリングな面もあり、緊張感はあるものの、大きな破綻はしない。知的で成熟した、自制心のある大人同士として、彼らは注意深く一定の距離を保ち続けます。
夫が嫉妬に狂って大騒動になるとか、再会した二人が駆け落ちするとか、いくらでも陳腐なメロドラマにできる設定ですよね? ところがそうはならず、「ああ、初恋の相手と24年ぶりにあったらこうなるだろうなあ」とか「夫としてはこの場合、こういう態度になるよ」とか納得しつつ、ドキュメンタリーを見ているような感覚にもなりました。セリーヌ・ソン監督の実体験が基になっていることも大きいのでしょうね。
派手な演出が一切ないので、演じ手は複雑で微妙な感情をちょっとしたしぐさや視線の動かし方などで表現しなくてはなりません。そんな難しい役を3人とも見事に演じ切っています。世界にはまだまだうまい役者がいるものだと感心しました。背景になるニューヨークの風景がまた素晴らしい。ソン監督は落ち着いた色調で観光地と生活の場を切り取り、登場人物たちの心情と溶け合わせています。
前世で縁があったから現世でも巡り会う。輪廻転生したら来世でもまた会えるかもしれない――。韓国の“縁(イニョン)”という概念が物語をしっかりと支えているからこそ、ラストのヘソンの言葉が胸に突き刺さるし、ノラの一言ではくくれない気持ちが、ぐぐーっとこちらに迫ってくる。夜道を一人で歩くノラをカメラが追うシーンは涙が止まらなかったし、今でも思い出すと泣けます。この場面は必見です。
人生に「もしも」はなく、何かを得たら何かを失う。どんな人も、心の中に埋めようのない「穴」を持っています。その「穴」は、今生のその時々で、その人なりに決断し、懸命に生きた証でもあります。ご縁のあった人と次の世で再会することを信じ、今を慈しんで生きようとしみじみ感じました。人生の喜怒哀楽をたっぷり味わった大人におすすめの作品です。
●『パスト ライブス/再会』サイト https://happinet-phantom.com/pastlives/
執筆者:本間千英子
新潟市出身。大学で映画脚本を学び、卒業後は東京でほんの少し邦画制作と宣伝に携わりました。幼少時から映画、ドラマ、演劇、本などを支えに生きる還暦フリーライターです。ここではエンタメ全般のオススメ作品と旬の話題もご紹介します!
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