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ロンドンのタワーマンションで一人暮らしの脚本家アダム。かつて暮らした郊外の町を訪ね、30年前に事故死したはずの両親と再会します。さらに、同じマンションに住む謎めいた青年ハリーとも親密になっていくのですが……。
1988年に大林宣彦監督が映画化した際は親子関係に軸が置かれていましたが、今回の作品では主人公のセクシュアリティをゲイに設定し、個々人の抱える深い孤独と、人が人を愛し、自分自身を受け入れる難しさと尊さを訴えています。
そびえたつ現代的なタワーマンションと、アダムの住む高層階から一望できるロンドンの街は洗練されていますが、どこか寂寥感が漂っています。一方、アダムが両親と過ごす郊外の風景は穏やかでノスタルジックな雰囲気。35mmフィルムの美しい映像で二つの世界の特徴を際立たせています。
主要登場人物は4人。しかも非常に複雑なキャラクターですが、当て書きのようにはまっています。繊細な感情の機微をあくまでも自然に表現できているのは俳優4人の実力と、ヘイ監督の卓越した演出によるもの。アダムと両親が最後に話し合うシーンには、互いへの深い愛がありました。
アダムが過去の街で両親に会うシーンは一貫して淡々と展開します。ゴースト・ストーリーなのに、リアルな「生」を感じるんですね。観ていると、亡くなった人のいる世界と、今自分が生きている世界は、隣り合って存在しているのではないかと思えてきます。
映画のように亡くなった人と触れ合うことはかなわないにしても、「もし今、再会したら」と想像することはできます。私は今年、父の亡くなった年齢になりました。当時の父と会えたら、いろんな意味で「ごめんなさい」しか言えない気がするのが情けない(笑)。
かつて自分を慈しみ、育ててくれた人たちが、次の世からも見守ってくれている――そう感じられる作品でした。
●『異人たち』 https://www.searchlightpictures.jp/movies/allofusstrangers
執筆者:本間千英子
新潟市出身。大学で映画脚本を学び、卒業後は東京でほんの少し邦画制作と宣伝に携わりました。幼少時から映画、ドラマ、演劇、本などを支えに生きる還暦フリーライターです。ここではエンタメ全般のオススメ作品と旬の話題もご紹介します!
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