暮らしのこと。

農業は私にとってのリトリート。ひとりでもやりたいことは全部やる。三条市在住・吉田千佳穂さん

2023.10.31
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できる女性は、オン&オフの切り替えがうまい。 仕事はきっちりやって、余暇は好きなこと、やりたいことに没頭する、バランスのとれたライフスタイルを持っています。 
三条市在住の吉田千佳穂さんはIT業界で世界を飛び回り、英語堪能、MBAも持つキャリアウーマン。 現在は、実家でリモートワークをしながら、両親と暮らしています。 そんな彼女の癒やしは、「農業」。 趣味の範疇を超えて、広大な土地で農作業に励んでいる吉田さんに農業に魅せられた理由を聞いてみました。 

吉田千佳穂さん

吉田千佳穂さん プロフィール
よしだちかほ・三条市生まれ。新潟大学人文学部を卒業後、上京し、外資系IT企業に就職。アメリカ留学を経て、日本マイクロソフトに転職し、MBA取得。同社の農業クラブに所属。6年前、三条市の実家に戻り、現在はGoogle日本支部に属し、リモート勤務をする傍ら、農業に勤しむ。

“人生後半は、故郷で
リモートワークしながら
介護と農業を“

―そもそも、なぜ農業を。
吉田さん 子どもの頃から野菜や花を育てるのは好きで農業への憧れはあったんですが、大学卒業後は上京し、将来性を感じてIT企業に就職しました。40歳の頃でしたが、当時勤めていた日本マイクロソフトで、千葉県で週末に農業をする「農業クラブ」を始めるとメールが回って、これだ!とすぐに飛びついたんです。

―そこで農業に夢中になった。
吉田さん 土地を貸してくれた農家さんに野菜づくりを教えてもらったのですが、野菜の育ちが面白いほど良く、熱心に通ううちにクラブの部長になっていました(笑)。

採れた野菜でサラダやパスタをその場で作って食べ、それがまた楽しくて。夏休みにはみんなで全国各地へ農業実習に出かけ、いろいろなつながりもでき、どんどん農業にのめり込んでいきましたね。

ガーデンランチ

―そんな充実した生活から、なぜ三条市にUターンを。
吉田さん 一つには高齢になった両親のことが心配でした。弟がいますが県外で生活しているし、世話をするのは私しかいない。一方で仕事の方も、IT業界は若い世代が中心なので、30年以上この業界で働いてきましたが、このまま会社にいて働き続けていいのだろうかと。

たまたま帰省した時に、燕三条エリアで農園主さんが開く「畑の朝カフェ」というイベントのお手伝いをしたら、それがすばらしくて。いつか私も野菜や果物を育てながらカフェをやりたいと思ったんですね。ITの仕事はリモートワークで続けられるし、実家に戻り両親と暮らしながら農業をやろうと決めたんです。

“畑は私にとっての居場所。
農業はリトリートとしてやっています“

―今度はひとりでの農業。何から取り掛かりましたか。
吉田さん 最初は三条市から市民農園を4区画借りました。まずは中古の鍬を手に入れ、小さなスペースで野菜を作り、徐々に開拓していったんです。肥料は市の事業で市内飲食店の残飯を使って堆肥を作っていて、それを使うことが条件で、私には好都合でした。

さすがに手で耕すのが限界になり、「ミニトラを安く譲ってくれる人いませんか?」とSNSでつぶやいたら、妙高市の方が古いミニトラを格安で譲ってくださって。軽トラックも買い、農機具がそろってきてひとりでやれる自信がついたころに、たまたま家の近くにもっと広い土地を、母の知り合いから貸してもらえることになったんです。

 ―それが今の畑。
吉田さん そう。広さは3200㎡ほどで、今育てているのは夏野菜ですね。長岡巾着ナスや四川きゅうり、糸ウリやコリンキー、トマトもいろいろな品種を作っています。なるべく薬を使わないように、雑草対策にはもみ殻を敷いていて、これが保水にもなるんですよ。

ひとりで作業していると、通りがかりの農家の方が「頑張っているね」と声をかけてくれて。そこですかさず分からないことを聞くようにしています。やはり農家さんは知見が深く、風土に合わせた的確なアドバイスをしてくれるので、さすがだなと。

―仕事や介護もしつつ、いつ農作業を?
吉田さん 行ける時にちょこちょこと畑に行っています。例えば、朝起きてほんの30分だけとか、夕方17時ころに「1時間ほどオフラインになります」と会社に伝え、その時間に農作業をするとか。休日はほとんど畑にいますね。

家は仕事場であり、両親との暮らしの場。そこからちょっとエスケープできる、畑は私にとっての大事な“居場所”なんです。精神的にも肉体的にも自分の健康を維持するために、いわばリトリートとして農業をやっている感覚ですね。

“ひとりなら
自分のやりたいことが
やりたいようにできる”

 ―ひとりで農業をする良さは。
吉田さん 自分のやりたいことを誰にも否定されず、やりたいようにできること。ネットを駆使して、国内だけじゃなく海外の農業の情報を集め、面白いと思ったことを試しています。

今、注目しているのは、イギリスのチャールズ・ダウニングという人がやっている「No Dig」。いわゆる不耕作法さん耕さずに土の上に良質なコンポストを積み重ねていくやり方です。大変な耕す作業と畝たてをしなくていいから、ひとりでも楽なんです。適したコンポストを大量に手に入れるのが日本では難しく、自分で作るしかないかなと。

野菜

―収穫はどうですか。
吉田さん 8割が“なり”が悪い(笑)。そう簡単にはいかないですが、やりたいようにやった結果としてデータを集め、次に生かします。

それでも野菜を作り、できた時の感動は、子どもの頃に二十日ダイコンが1個だけ丸い実をつけた時と変わりません。ビーツが1個でもできていると、畑でひとりで「できたー」って喜んでいます。時々、地域の人たちに親子で収穫体験をしてもらっては、喜びを分かち合っています。

スナップエンドウ

―収穫した野菜は販売も?
吉田さん 家の前で100円販売や知り合いにイベントで販売してもらうこともあります。売り上げは、年間数万円くらいで絶対に赤字(笑)。とはいえ、そもそも野菜販売で生活することを目指していたわけではないので、それは想定内。あくまでも複業の一つとして捉えたほうが、思い詰めずにやれると思います。

“命尽きる日の朝まで
畑で働いていたい”

―余暇にひとりで農業を始めたい人へアドバイスを。
吉田さん どれほどの規模でやるかで違いますが、自治体のサポートがたくさんあるので、まずは問い合わせてみるといいと思います。少しだけやりたいなら、市民農園はおすすめ。意外と耕作放棄地を貸してくれる人もいるので、周りに相談してみるといいと思いますよ。最初から機械を買わなくても、鍬が一つあればある程度まではできますよ。ミニトラを買うなら、整備すれば中古で十分。

 ―ずっとひとりで農業を続けていきますか。
吉田さん 本当は一緒にやる仲間がいてくれたら一番いい。私はひとりで頑張ってしまい、人にうまく頼り、手伝ってと言えなくて。確実に体力は落ちてきているし、ひとりではやっぱり限界があると感じています。

人を雇うほどの収益がないので、例えばスマホで30分おきにスロットを作って、いろいろな人が入れ替わり立ち替わりちょこちょこっと手伝って、野菜を持って帰ってもらうというような、メンバーシップ制も面白いんじゃないかと思っています。

 ―農業の仲間を作っていく。

吉田さん 私は命が尽きる日の朝まで畑で働いていたいと思っていて、そのためには、その場所を自分で作っていかなければなりません。しかも、楽しんで作っていきたいので、それには仲間がいた方が絶対にいい。その中で、できれば、畑を引き継いでくれる相手ができたらいいと思っています。

私が倒れたら、誰が畑の片付けをしてくれるのか。友人なのか弁護士なのか、その準備はしておかなければいけないと思っています。WEBで登録して保険料を払い、随時変更もできて、その時が来たら管財人が片付けてくれるようなサービスがあるといいですよね。

―さらなる計画が進行中とか。
吉田さん 梅やユズ、ベリー系、ネクタリンも植えて果樹園を造りたくて、300坪の土地を買いました。今、どんな果樹園にしようかデザインを考えているところです。そして、いずれはとれたての野菜でごはんが食べられるカフェもやってみたいですね。

何もしない人生より、やりたいことは思い切って全部やってみようと思っています。「やりたいこと、好きなことが見つかるまでキープルッキング」とスティーブ・ジョブズも言っています。私はそれが見つかっただけでもラッキーだと思っています。

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駒村 類 Rui Komamura
この記事を書いた人

東京でテレビディレクターとして報道・ドキュメンタリーに携わるが、出産のためUターン。2010年から雑誌の編集・執筆を行う。事実婚のため戸籍上はおひとり。自分と動物に甘く、人に厳しい。

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